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組織変革の壁-必要な臨界質量

「できますかね?」改革プランを前にして頭を抱えています。
そんなときわたしがいつも意識してきた変革の数値的な壁についてお話します。

<臨界質量>とは物理学の用語ですが、
そもそも核分裂に連鎖反応を生じさせるのに必要な質量のことです。
それ以下では核分裂を連鎖的に続けることができず、言わば火が消えてしまいます。
それ以上では核分裂が連鎖反応を起こし、莫大なエネルギーを生み出します。

組織が変革するときも同じです。
一時の「にわか改善」、「打ち上げ花火」で終わらないために、<連鎖反応>が必要です。
でも、そもそも組織を変えねばという強いチェンジマインドを持つ根っからの改革人の割合は、
一般的な組織において1-2%と言われています。

それに対して、組織が変革を遂げるためには、その割合が経験値的に20%と言われています。
それ以下では変革の連鎖反応を持続できず、すぐに火が消えてしまいます。
それ以上では変革が連鎖し、組織の各成員を巻き込むことが可能になり、
莫大なエネルギーを生み出します。

このことをロジャーズのイノベーション理論で置き換えてみたいと思います。
イノベーター・・・革新的採用者
アーリーアダプター・・・初期採用者
アーリーマジョリティ・・・初期多数採用者
レイトマジョリティ・・・後期多数採用者
ラガード・・・採用遅滞者
の順に変化は連鎖していきます。

ここで20%まで増殖すべきは、初期採用者、つまり、自分で情報を集めて判断し、
多数採用者に影響を与えることのできる人です。
イノベーション理論では、ここまでの割合が16%となっていますが、
凡そ20%という経験値と合致しています。
アーリーアダプターからアーリーマジョリティに移行すると、急激な連鎖反応が生じるようになります。

数々の変革プロジェクトを見てきて、この数は本当に妥当な線だと実感します。
仮に100名から成る組織を変革するには、数名のチェンジリーダー的素養を持つ人がおり、
改革プロジェクトを仕切れるかどうかはともかく、周囲の影響で簡単に火を消さない改革人です。
20名ほどが改革の必要を性を理解し、改革しようと行動し始めると、連鎖反応が生じ易くなります

この割合、組織変革のみならず、新しいもののパイロット的導入、ムーブメントの火付け、などの
妥当的な数を導出するのに大いに役立ちます。
わたしはこれまで、改革の成功確度を高めるための指標や組織風土の評価指標として、
この割合をいつも意識してきました。

よく欧米と日本では変化気質が違うなどと言われますが、
わたしの経験上、組織変革の臨界点については全く同じだと思います。
臨界点の考え方、ここ数年、ティッピング・ポイント・リーダーシップなどと言われています。

結果の共有よりも基準の共有

チェンジリーダーに必要なことは、判断結果を共有させることよりも、判断基準を共有すること。マトリックスで言えば、要素の共有ではなく、軸の共有が大切ということを物語るストーリーです。

欧米数カ国が参加したグローバルなローカライズプロジェクトでのことです。各国のそれぞれの特殊事情を考慮しつつも、英語初版仕様は変更はしない方針。でも、各国のいわゆるカスタマイズ要求は交錯し、仕様は膨らむばかり。なんとか自国の便宜を図って、いい物にしたいというのは世の常です。各国の特性や文化的習慣に至るまで、どうしてその要求が生まれたのかを何時間も互いに異文化の人たちに説明されます。

なんと、数えてみると、約700件の課題が宙に浮いていたのです。判断解決スピードよりも、新たな課題が生まれるスピードの方が早い!徐々にプロジェクトは混乱し、誰の目にも目標日付を死守するのが困難に思えてきました。

そこに、やってきたのが体格のいいコンサルタント。半日ほど黙って見ていたかと思うと、おもむろにホワイトボードの前に立って何やら書き始めます。それは、大きな十文字。

横軸にはE。つまり英語仕様を示すライン。縦軸にはT。つまりTIME(時間)です。あくまで最初の方針であった初版の仕様は超えないということを横軸で了解。そして残りは時間で切ってしまおうという考えです。

確かに、議論が進むにつれ当初のゴールが徐々に薄れていました。ですから、今一度ゴールに立ち戻り、それを判断基準として見直そうという考えには誰もが納得です。

残りの半日で、参加者全員がそのマトリックスに700件の課題をマッピングしていきました。互いに持っている特殊事情と思惑のある中で、その短時間に、判断<結果>ではなく、判断<基準>を共有し、
優先順位を明確にできたことは、実にお見事。と言うよりも、それまでどうやっても折り合えなかったのに、誰もが基準を共有している、ショッキングかつ不思議な感動を覚えました。

マトリックスが力を発揮する現場を目の当たりにした初めての経験でした。このときに使われたマトリックスは、今では少し姿を変えて、私自身、課題の優先順位付けマトリックスとして、コンサルティングでよく使っています。