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物語の力

数字やデータの羅列ではいくら上手にプレゼンしても、なかなか人を行動へと動かすことができない。これは企業組織における戦略の浸透と関わる大きな課題です。その理由は、一言で言うと、人は合理性だけでは動かないからです。

デンソーは世界30カ国、10万人に価値観を共有するための方法を探りました。様々な文化の中に価値観を共有する上で成功した事例としてキリスト教の宣教師たちに注目したのです。キリストの苦難に満ちた生涯の物語から、自己犠牲に伴う他者への貢献を通じて幸福を希求するという理念が浸透したのです。日本でも、たとえば、二宮尊徳の物語から勤勉さを、忠臣蔵やハチ公の物語から忠誠という理念を伝えています。「物語」(ストーリー)の持つ力に注目したわけです。

ハリウッドの脚本家であるロバート・マッキー氏は、物語を「いかに、そしてなぜ、人生が変わるかを表現するもの」と定義しています。そして、古今東西すぐれた物語には4つの型があるとしています。

(1)バランスのとれている状況
(2)事件の発生(バランスの乱れ)
(3)バランス回復のための葛藤と努力
(4)真実の発見

言われてみれば、わたしたちの仕事や人生に影響を及ぼしている感動的なストーリーにはこのような型が当てはまります。試しに、自分の印象に残った仕事を取り上げ、このパターンにそって物語を語ってみてください。相手のうなづく姿が見えます。

戦略を浸透させるために、単なるキーワードや美辞麗句を並べ、それを裏付ける分析的情報を伝えても、人は動きません。なぜなら、そこに感動、つまり情動性がないからです。その背景や至った経緯をストーリーとして語ってみましょう。合理性と情動性を併せ持つ伝え方をするわけです。

たとえば、「組織的行動」を目指して・・・とあれば、その言葉をそのまま伝言ゲームで伝えるのではなく、なぜ今「組織的行動」なのかをストーリー展開するわけです。その上で、その言葉を”現場の言葉”に翻訳します。他人事のように思われた標語レベルのことが、自分で取り組むべきものとして捉えられるようになります。理念や戦略のように伝わるものは、それと自分自身とのつながりを自分で見いだすことが必要です。物語はその点で人間の造りに訴えていると言えるでしょう。

「感じるマネジメント」リクルート HCソリューションズ より