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チーム学習に必要なことは”全体を見ること”

たこつぼ型、井の中の蛙、個人商店化・・・組織における属人化の問題は、より良い方向への変化を妨げることがあります。そこで、多くの企業では、必ずと言っていいほど、組織としての取り組みを目標に掲げます。ところが、目標に掲げて、体制を変更するものの、人に仕事がくっついていくだけで、名前が変わっても実態が変わらないなどの状況をよく見ます。仕事を互いに補完し合うだけでなく、クロスで学び合い、相乗効果を期待するのですが、なかなかチームとしての学習に至らず、結局は現業優先で、”組織化”が実現しません。では、どのようにチーム学習を促進できるでしょうか?

チーム学習は、互いに話し合うことから始まります。話し合いといえば、ディスカッション(discussion)ですが、この語源は、打撃(Percussion)や衝撃Concussion)から来ていて、文字通りには、勝者がすべてを得る競争の中で考えを互いにぶつけ合うことです*。しかし、ここで考えたいのは、個人では得ることのできないような洞察をグループとして発見するような自由な話し合いです。この種の話し合いのことをダイアログ(dialogue)といいます。ギリシャ人にとってダイアログ(ディアロゴス:dia-logos)とは、logosつまり言葉が、diaつまり互いに自由に流れることを意味します。興味深いことに、ダイアログという習慣は、アメリカン・インディアンや古代ユダヤ人の文化の家族や族長制度の中で守られてきましたが、現代社会では失われつつあると言われています。

では、そのようなダイアログはどのように生み出せるのでしょうか?小さなグループ内のダイアログだけでは、それを超えた組織の力になりません。そこで、部署間を横断して、大きなテーマで”話し合う”ようにします。たとえば、技術、生産、販売などのセクションごとに今困っていることや課題を洗い出します。その中には、自部門と他部門の接点で生じている課題があるものです。それらの因果関係を大きなサイクルとしてつなげてみます。これはシステム思考の考え方です。

たとえば、生産部門は、受注見込みがないのに生産計画を立てなければなりませんので堅めに見積もります。一方で、販売部門は欠品や納期遅れが怖いので余裕を見て受注引き当てをしようとします。こうなってしまうと、互いの都合が悪循環になってしまいます。このような課題に対してまずは双方が互いにどのような課題を感じているのか、書き出してもらい、たとえば以下のような表にまとめてみます。

技術部門 生産部門 販売部門
技術部門 N/A
生産部門 N/A
販売部門 N/A

表に基づいてディスカッションではなくダイアログ、つまり、互いを打ち負かして責めるのではなく新たな洞察を得るために自由に意見を述べるようにします。各部の言い分がどのように相互に関連しあっているのかを話し合い、問題の循環図を描きます。これを循環思考といいます。問題の原因分析では、ロジックツリーで直線的に深掘りすることがありますが、多くの場合、原因は複数の問題を生んでおり、一意に因果関係を持ちませんから、循環図で描く方がより現実をとらえやすくなります。

ダイアログを重ねていくうちに、受注見込みはどれくらいの確度でいつくらいに判るのかなどの現場感覚的な情報が飛び交うようになります。代理店を通しているので、そこでの販売予測がどうしても甘くなるなどの実情もわかってきます。生産を絞られるのが怖いうちは、販売は決してそういった現場情報を出さず、かえって隠そうとするものです。互いの”手の内”とその問題が見えるようになるからこそ、その問題を組織でどのように克服できるか、前向きに考えることができるようになります。ここまでくれば、悪循環のループを断ち切り、それをよい循環にさせる方法について、今まで眠っていた現場情報が飛び交うようになるものです。

チーム学習のポイントはダイアログですが、ダイアログのポイントは、互いが見えること、つまり全体が見えることです。興味深いことに、英語のWhole(全体)とHealth(健康)は語源が同じだそうです(古典英語でhal=元気の良いという意味)*。したがって、今日、わたしたちの世界の不健全性が、わたしたちが世界を全体としてとらえることができないことに正比例していることは、驚くに当りません。企業の組織という”世界”も同じです。互いに学び合い、組織力を発揮するためには、全体が見える”健康”をまずは考えてみなければなりません。

*「学習する組織」ピーター・M・センゲ より