緊急感を高める2つの目覚まし時計

組織の変革には、関わる人の参画意識、当事者意識が必要です。
そのために必要なもの、それは一言で言うと「緊急感」!(Sense of urgency)
それを高める即効性のある目覚まし時計が2つあります。

遅々として進まない改革プロジェクト。笛吹けど踊らず状態が続きます。
一方で、一丸となってどんどん弾みのつくピリッとした改革プロジェクトがあります。
わたしはその感覚を「緊急感」と呼んでいます。

組織の変革が連鎖反応を引き起こす数値的な壁、必要な臨界質量のような閾値についてはすでにお話しました。

その臨界質量まで持ち上げるための即効性のある方法が、
A. Mirror(鏡)・・・内的な緊急感
B. Storm(嵐)・・・外的な緊急感
の2つです。

Aの典型的な方法は、自分が実際にはどんな状態にあるのか客観的な現実を目の当たりにすることです。
ここで言う自分とは、改革の対象となる当事者です。
たとえば、問題の生じている現場に直接見に行く、実際にやってみるなどして、
触れる、感じ取るといった気付きが必要です。
自分を映し出すための<鏡>という仕掛けが必要になってくるわけです。
このままではまずい!という感覚が生まれれば、それが変わろうとする緊急感になります。

Bの典型的な方法は、周りがどれほど大変なことになっているのか現実を目の当たりにすることです。
顧客はすでに変わってしまっている、市場が新たなものを求めている、という類の事実です。
たとえば、顧客の声を直接聴いたり、顧客になってみたりして、触れる、感じ取ることが必要です。
他社や海外拠点の状況をまざまざと見て、このままでは取り残されるといった感覚もそうです。
外からの力で動かざるを得ないような<嵐>という仕掛けが必要になってくるわけです。

数字やビジョンやアイデアで訴えて変革の必要性を<理解>してもらうのではなく、
手っ取り早い方法は、変革の必要性を<経験>してもらい、緊急感を持ってもらうこと。
徐々に変化を芽生えさせるというよりも、ある特定の影響力のあるポイントをテコにして、
短期間にいわば「流行」を起こして変革を成し遂げることが必要です。
このポイントはティッピング・ポイント(Tipping Point)と呼ばれています。

好例として引き合いに出されるのが、「割れ窓理論」の話です。
1990年代前半、NYでは犯罪が収まらず、殺人事件は史上最悪を更新していました。
NY市民は戦々恐々とした日々を送っており、地下鉄にも安心して乗れません。
ちなみにわたしが始めて米国出張してNYの夜の地下鉄に乗ったのはその頃です。

覚えています。震え上がったのを・・・。
NY市警の3万6千人の職員は、低賃金、モラルの低さ、危険な環境、長時間労働にあえぎ、
事態収拾のための予算もありませんでした。

この最悪の状況下で、ブラットン市警本部長は、たった2年間で
NYを米国で最も安全な大都市に変貌させました。
1992-94年の間に、重罪39%、殺人50%、窃盗35%の減少、驚異の改革をやってのけました。
同時に市警の「顧客」である市民の信頼度は37%から73%に急上昇です。
退任後も犯罪率の減少が続いていると言われています。

ブラットンがまず行ったのは、「緊急感」の引き起こすために厳しい現実を突きつけることでした。
鏡に映し出すべく、市警の幹部たちを連日連夜数週間に渡って地下鉄に乗せたのです。
(幹部は通常地下鉄に乗らない)。
地下鉄内で発生する重罪は数字上3%に過ぎませんでしたが、
NYの治安の醜い現実がそこにあったからです。

同時に、治安の悪さを理由に転出の続く地域の住民の声を直接聞かせ、
嵐にさらすかのように、対話集会を開きました。
その地域の重罪の検挙率は上昇していましたが、
住民感情としては、重罪に対する不安よりも、
酔っ払い、物乞い、街娼、落書き、破損に不快感を最も抱いているという現実があったからです。

まさに鏡をと嵐を用いて緊急感を高めることを行ったわけです。
これは当時の市警幹部にとって、目覚まし時計のような即効性のある効果を及ぼし、
これがテコになって、異例な速さでいわば「流行」を起こして変革を成し遂げるに至ったのです。
ブラットンの変革の仕掛けは他にもありましたが別の機会にお話します。

ユーザーの巻き込みが足りないなどとよく言われます。
それは仕組みではなく仕掛けが足りないからです。
巻き込みの即効性を高める2つの視点をお話しました。

——- Lesson Learned ——-
鏡と嵐という2つの仕掛けで緊急感を高める
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