チェンジマネジメントは論理よりも心理

改革の成功確率を高めるにはどうしたらよいか?それを考えることが、チェンジマネジメントの世界です。チェンジマネジメントでは、変革を出たとこ勝負ではなく、変革は分析し科学できる、つまり再現性のある制御可能なものであるという前提に立ちます。組織が生き続けるには、変化することが必然である以上、健全な組織活動には、変化を科学する力がないと生き残れません。変化に対して、組織はどんな現象を生じるか(What)、その現象はなぜ生じるのか(Why)、そのエネルギーをどのように制御し建設的に使うか(How)を考えること、これがチェンジマネジメントです。

チェンジマネジメントは、リーダーシップ、コミュニケーション、そして幾多の戦略理論が関係しており、言わばビジネスの総合力です。米国が大企業病に悩まされていたとき、大胆な業務改革の一種のブームの火付け役となったのが、BPR(Business Process Reengineering)の父祖とも言われるマイケル・ハマーです。その著書*1)には、ビジネスをプロセスに分解し、ゼロベースであるべき姿を見直し、プロセスを大胆に再構築するという主に論理的な変革の進め方が説明されています。日本の企業でも90年代にこぞってBPRを実施しましたが、折りしもバブル崩壊直後のリストラ(本来はリストラクチャリング=再構築なのですが・・・)の時期と重なり、BPRがネガティブに捉えられてしまい、成功しませんでした。その後コンピュータの2000年問題を機に、ERP(基幹業務)パッケージの導入と共に、BPRが語られるようになりました。21世紀に入り、これまでやってきた既存のビジネスのスリム化と見直しという意味合いから、新しいビジネスの構築という視点にシフトし、BPRがよりポジティブに捉えられるようになりました。ブルーオーシャン戦略*2)などは、その典型と言えるでしょう。これらの変遷はいずれも変革の“論理的”な進め方に重きを置いています。

ところが、変革が思うように進まないほとんどの原因は、戦略の悪さや論理的な分析、進め方の問題というよりもむしろ、関わる人々の“心理的”な側面の影響なのです。システム開発プロジェクトに関する多くの著書を残しているワインバーグも、システムの仕事は論理的だと思いがちだがその多くは感情に基づいているのに、人々の気質の差異に目を向けないのはお粗末だと述べています。*3)変革に対する人々の心理的側面は、非常に曖昧で混沌としたものですので、その多くは体験談やストーリーの中で属人化しています。NHKのプロジェクトXなどはその最たる例でしょう。「技術は度胸だ」、「最後まで信じ抜く」、「挑戦者に無理という言葉はない」、「情熱を持ったプロフェッショナルになれ」など、言葉にした途端、その人が言うから重みはあるのだけれども、一時的な高揚感で終わってしまう感じが否めません。

一方で、リーダーシップ論の変遷に注目すると、心理的な側面を脇に置いてこれ以上は進めないといった感があります。ちょっと振り返ってみましょう。かなり遡って戦前の1940年頃までは、「特性理論」つまりリーダーシップは作られるものではなく生まれながらに持つ特質であるという先天論でした。ところが戦争中、数多くのリーダーを必要としたため、1940年以降は「行動論」、つまりリーダーシップは作られるものであり開発できるという後天論へと移り変わっていきました。1960年以降は、「条件適応理論」と言って、リーダーシップは単一のスタイルではなく状況と条件によって多様的に発揮されるべきであり、唯一最善の普遍的なものではないという考えが主流になりました。企業の多角化が進むにつれて多様性が求められるようになった背景があります。パス・ゴール理論はその典型的な例でしょう。*4)そして1980年以降、変革的リーダーシップ論が主流になりました。変革を実現するにはどんなリーダーシップを発揮すべきかに焦点を当てています。*5)これは先ほど述べたBPRのブームとほぼ時を重ねる背景があります。そして近年では、モチベーションやコーチングに注目してリーダーシップが論じられる傾向が強くなりました。つまり、心理的側面を扱えるリーダーが求められるということです。では、チェンジマネジメントの手法の幾つかをご紹介しましょう。

*1 リエンジニアリング革命(邦題) 1993 マイケル・E・ハマー 日本経済新聞社
*2 ブルーオーシャン戦略 2005 W・チャン・キム ランダムハウス講談社
*3 ワインバーグのシステム行動法 1991 G・M・ワインバーグ 共立出版
*4 MBAリーダーシップ 2006 グロービス・マネジメント・インスティチュート ダイヤモンド社
*5 リーダーシップ論 今何をすべきか 1999 ジョン・P・コッター ダイヤモンド社

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>