あるべき姿を妨げる壁を取り除く(1)

前回は、To Be思考を分別、識別、洞察の3つに分けて考えました。
これから3つの記事に渡ってTo Be思考を妨げる壁を克服する方法を説明します。
今回はその第1の壁。

メーカーA社出荷プロセスのBPRプロジェクトを例にお話します。
新プロセス(To Be)を構築しようとするのですが、考えれば考えるほど、複雑になってしまいまとまりません。
何日話し合っても堂々巡りです。数日で終わるはずだった検討会が、結局3週間もかかりました。
ラインのマネージャがプロジェクトに参加しているのですが、彼らは実は現プロセス(As Is)の構築者でした。
だから、どうしても集団防衛意識が働いて、現状を守ろう、残そうとする力が働いてしまったのです。
自分たちで構築したものを、自分たちで壊して、新しくするのは、感情的に結構タフなことです。

しかも、そこに自負、軋轢、権限といったものが見え隠れしていました。もちろん、言葉にはしませんが。
さらに、トヨタのカンバン方式やAmazonのモデルは、“正解モデル”だという思い込みがありました。
彼ら自身も本を読んでよく勉強し、そういう方法を是非取り入れたいと強く願っていました。
どうやら、担当役員の発言の中で言及されたらしく、それから逸れてはならない暗黙の空気もありました。
実際には、外のモデルを適用するという視点の持ち方の例として引き合いに出されただけでした。
でも一度そうだと思い込んだものからは、離れて別の視点で考えようとしても、どうしても引きずってしまう。

彼らは、いわば現場通、つまりベテランでしたし、自社工場の他の拠点も知り尽くしていました。
加えて、彼らは大量少品種から少量多品種JITの時流にどうしても移行し切れていませんでした。
それでチームに加わった経験の少ない若手になかなか発言の機会がありません。
ときどき、どう思う?と聞かれても、この場合はどうなる、あの場合はこうなる、と言われてしまえば、
いくら柔軟な思考の持ち主でも、いずれは思考停止に陥ってしまいます。
こういうとき、ブレークスルーを起こすのは、若手の意見であったり、部外者の意見であったりするものです。
既存の枠組みから抜け出せず、いいところまで行くのですが、堂々巡りとなってしまったわけです。

この事例からTo Be思考を妨げる壁を発見できます。
1つ目の壁は「感情」です。

思考が感情に左右されないように論理で進めましょう・・・、よくある模範解答です。
だから多くの戦略理論やリーダーシップ論では、感情と論理を対極に置いてモデル化します。
でも、人間は言い訳作りが得意ですから、感情は論理を圧倒することがあります。

感情に左右されながらも、“論理”を構築できてしまうのです。決して侮れません。
その“論理”がなかなか見破れない、これが克服すべき壁です。

感情を克服するために、論理の矛盾点というよりも飛躍点を追ってみることを意識してください。
感情で見事に構築されたTo Beに急ぎ足で飛んでしまった跡を発見できることがあるからです。

もう1つの方法は、目的と手段がいつの間にか入れ替わっていないかを確認するということです。
目的を掲げながら、実はやりたいことがある場合、思考が進む(実は感情が進む)と、目的はどこへやら。
やりたいことが目的になって、その実現手段を考えているということがあります。

前者の場合は、どのように、どのように・・・を追って行くこと、
後者の場合は、何のため、何のため・・・を辿って行くことのです。出来るだけ丁寧に・・・。

また、とても単純ですが、有利な点と不利な点を書き出して言葉にすることもいつも意識しています。
先の事例では、書き出すことによって、感情で繋がれている論理の飛躍部分を明確に出来ました。
感情がすべて悪いわけではありませんが、不合理な部分を顕在化できれば、もやもやが取れます。

人は「頭もやもや心どんより」という状態では、あるべき姿を描けませんし、それは実行されません。
息吹のない巨体(絵に描いた餅というほどきれいなものではありません)が、出来上がってしまうだけです。
おまけに人の心はすぐに必死になる、つまり感情的に執着してもっともな論理を構築してしまう。
だから、人は「頭すっきり心どきどき」という状態を目指さねばならないといつも意識しています。
単に悩むことから考えることへ進む第一歩です。

—– Lesson Leaned —–
感情の壁を克服するために・・・
・論理の飛躍点を見つける
・目的と手段を確認する
・優劣を書き出してみる
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