ダイアログ(dialogue)という話し合い

ラーニング・オーガニゼーション(学習する組織)の研究が進むにつれ,企業の活動においても”ダイアログ”という取り組みが注目され始めています。企業環境の複雑化とスピード化に伴い,誰かが答えを持っていたり,過去に経験したりした事例がないばかりか,一部の人々で”ディスカッション”して最適な解を見つけて事に当たっても,解決に至るまでにふたたび環境変化が生じ,組織が動き出す頃には最適でなくなっているのです。トップダウンでスピーディにやろうと思っても,視野が広がらず堂々巡りということやアイデア枯渇と感じることがあります。

互いの意見の対立から始まって,それを刷り合わせ,そして落としどころ(多くの場合はトップの一言)という,典型的な”ディスカッション” ではなく,もっとオープンに関係者が立場を超えて想いを理解し合い,ストーリー(文脈,コンテクスト)を共有し,関係性やプロセスを重視する話し合いを目指すのが,ダイアログです。

ディスカッションは,打撃や打楽器を意味するパーカッション (Percussion)や衝撃や振動を意味するコンカッション(Concussion)から来ていま す。互いの意見の違いを明確にし,部分に切り出して,1つの解答を目指して説得し妥協するという機械的運動をイメージさせます。

一方,ギリシャ人にとって”ディアロゴス(Dia-logos)は,「個人では得ることのできない洞察をグループとして発見することを可能にするような,グループ全体に自由に広がる意味の流れ」*を意味しました。簡単に言うと,「共に考える」ということです。この習慣は,アメリカン・インディアンの文化などで原始的に守られてきたようです。

”直線的戦略 の実行”ではなく,”有機的ビジョンの共有”に創造的価値を見出し,ダイアログを話し合いのスタイルとして取り入れることで,学習する組織の浸透を目指すことができます。現在,この考え方は,システム思考やストーリー・テリングなどが問題解決手法やコミュニケーション手法として注目されています。ただし,日本企業においてこれらを浸透させるためには,次の2つのトレーニングが必要であるように感じます。


1)プリンシプル(原則)思考・・・原則に基づいて具体的な事象に対する対応を判断すること,あるいは具体的な体験から普遍的な原則を導き出し,それを別の事象に適用すること

2)イラストレーション(たとえ)思考・・・ものごとを抽象的に捉え,その本質を別の物事でシンプルに表現すること,第三者の立場からわかりやすく事例を説明すること


いずれに共通するのは,部分から全体へ,全体から部分へ,具体から抽象へ,抽象から具体へという思考の変位です。このトレーニング方法に関しては別の機会に考えたいと思います。

* 「学習する組織」(2011) ピーター・M・センゲ

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