月別アーカイブ: 2006年9月

「台北便り2」

再び台北からです。

台北滞在もラスト1週間になりました。中国語の方は、発音に関しては多少、それらしくなってきました。中国語では口を完全に閉じる音はありません。 話し始めたら、話し終えるまで、口は開いたままです。藤山寛美演じるところの「大阪のアホノコ」みたいな感じを意識して話すと褒められます。

日本語の場合、口は上下に開きますが、中国語の場合は、下あごを奥に引くように開く音が多いです。これかできるようになるために、毎日、風呂の中で、表情筋ストレッチをしています。

下あごを奥に引く発音はタイ語にもあって、そのためにタイ人の口元は唇が「への字」になっています。その「への字」の口元が微笑むと「Vの字」になります。「への字」から「Vの字」への変化率の大きさがタイを「微笑みの国」と呼ばしめているような気がします。

しかし、中国人の口元は「への字」にはなっていません。彼らの口元はニュートラルで、あまり表情がありません。「口の形」は発音(音素)だけで決まるわけではないと言うことですね。

それにしても中国人の耳はたいしたもので、L/R、F/H、J/Z・・・・の区別、声調の違いをちゃんと聞き分けます。厳密に区別がつきすぎて、日本人の耳には近似な発音でも彼らは決して補って聞き取ってくれません。そういう意味では「耳が悪い」?

その点、タイでは事情が真逆でした。実はタイ語にも声調があって、それが違うと意味がまったく異なるらしいのですが(当然ですね)、タイ人はその辺 もおおらかに聞き取って外国人のタイ語をよしとしてくれます。「美しい」というタイ語は「スワイー」といいますが、声調を間違えると、「不吉な」と言う意 味になるらしい。でも、外国人が「スワイー」といえば、彼らはみな喜んでくれます。実際、私などはバンコクに一年いて、タイ語に声調があるということをバ ンコクを出てから知りました。

カンボジアのプノンペンでは、ポルポト時代に途絶えた中国語教育の再興が計られています。中華学校に大陸から北京語(普通語)の教師が呼ばれて来て います。西域の非中国語圏でも、長年、固有の言語を守ってきた地域で、中国語熱が高まっているとか。これもグローバル化のなせる業。日本では、グローバル 化=アメリカ化との批判がありますが、グローバル化=中国語化である地域もまた広大です*1)。

柄谷行人氏が「世界共和国へ-資本=ネーション=国家を超えて」(岩波新書)の中で、21世紀になって台頭してきたのは旧文明圏であるということを 指摘していました。確かに、中国もインドも古代文明圏ですし、イスラム世界もその中心は旧メソポタミヤ文明、旧エジプト文明圏です。文明論的には20世紀 までの現代が、むしろ例外的に「文明の周辺圏」が世界をリードした時代だったというわけです。イギリス、アメリカ、そして日本。

書家の石川九楊氏も、「日本語とはどういう言語か」(中央公論社)の中でこう言っています。「漢文、漢詩、漢語に加えて、女手(ひらがな)による和 文、和歌、和語ももつこと、西欧語を直截に表記する音写文字・カタカナをもつことから、日本語はいちはやく近代化を達成し、西欧列強による植民地化を免れ た。しかし、その後、百年以上を経ると、音写文字なき中国語も表音表意的、批判的に西欧語の理解と吸収を実現し、このころから西欧文明の限界が見え始めた ことと相俟って、底力を持った中国(語)の台頭が見られる。こまごまとした先端部分では、今後も日本(語)は敏捷に対応しようが、東アジアにおいて日本 (語)が、先駆的に領導する時代は終焉したのである。」

私としては、中国(語)がどのように「音写文字なき」ままに、「表音表意的、批判的に西欧語の理解と吸収を実現」したのかを知りたいと思います。 「こまごまとした先端部分で」、「敏捷に対応」するためにではなく、後何十年か生きるとして、その間、歴史に対する責任を果たしていくために。

再見!

Love & Work !!

*1) 日本でも中華学校の脱民族学校化=国際学校化が進んでいて、そこへの子弟の入校を希望する日本人も増えてきているとの報道もあります。
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/mori/archive/news/2005/10/20051003ddm004040083000c.html
http://www.nier.go.jp/homepage/kyoutsuu/kyoutsu2/kiyou134-143.pdf

先回の記事の訂正
先回の記事の中で「同じアパートに住む夫婦は、息子を中米のベニンに留学させています」と書きました。中米のベニン?、ベニンはアフリカです、中米ならベ リーズのはず・・、というご指摘をいただきました。そのとおりです。正しくは、中米のベリーズです。謹んで、訂正させていただきいます。細かいところま で、ちゃんと読んでいただいて、謝謝!