月別アーカイブ: 2006年2月

「インサイト」ってなに?(その2)

サワディ・カップ!今日はタイの祭日。飲み屋街も店を閉めていて、空いている店もアルコールは出しません。こういう日は、大人しく、原稿でも書くに限る。というわけで、先回の続き。

先回は、インサイト=INSIGHT=洞察、ということについて説明させてもらいました。今回は、インサイト=INCITE=鼓舞する、ということのついてです。ちょっと迂遠なところからはじめます。

NHKの看板番組、「プロジェクトX」が終了し、後継番組として「プロフェッショナル-仕事の流儀」が始まりました。人気の看板番組をあえて終わら せた背景には、取り上げるべき「プロジェクト」の枯渇という問題があったと聞きます。仕事に係わるいい話=ネタはたくさんあるのですが、そこで輝いている のはプロジェクトではなく、あくまでソロの個人、そういう話ばかり。そこでもっと個人に注目できるように、番組のコンセプトをシフトさせた。時代を感じさ せるエピソードではあります。

その「プロフェッショナル」で、毎回フューチャーされているプロが、番組の最後に、「プロフェッショナルとは?」という質問に答えます。第一回の 「経営者・星野佳路」曰く、「プロフェッショナルとは常に完璧を目指している」、云々。第二回の「小児心臓外科医・佐野俊二」曰く、「・・・、誇りと責 任」、云々。第三回の「パテシエ・杉野英実」曰く、「永遠の未完成でいたい」、云々。第四回の「アートディレクター・佐藤可士和」曰く、「ハードルが高い ことを超えられる人」、云々。第五回の「弁護士・宇都宮健児」曰く、「徹底的にやっている人」云々*1)。

一流のプロの言葉にしては、「いまいち凡庸」の観が拭えませんが、押しなべて、「他の人にできないことをしている人がプロだ」というような「プロ フェッショナル観」が開陳されているような気がします。まあ、番組のコンセプトからすれば当然のことであって、これからもそういう謂いが重ねられていくで しょう。

なんて、ちょっと皮肉っぽくコメントしたからには、「お前はどう考える?」ということをご披露しなければなりません。プロとは何か?私はこう考えます。

<プロとは、その仕事を自分の成長機会としている人このとである>

他人(ひと)にできないことができることも、他人よりも上手くできることも、必要ない。そんなこといったら、プロなんてホンの少しの一握りの人だけ になってしまう。ちょうど、プロの野球選手の、そのまた大リーグの選手の、そのまた一握りのスター選手がトップ・プロと言われる、そのトップ・プロだけが プロであるというようなプロ観ではないプロ観、それを大切にしたい。どんな分野の、どんなクラスのスタッフでも、自分がその仕事を自分の成長機会を獲得す る場であると思い定めてそれに取り組む限り、その人はその仕事のプロである。そう思います。

で、そういうプロはお互いを励まし合う。なぜなら、それぞれは仕事を自分の成長機会としようとしているのであって、他人(ひと)との競争機会としよ うとしているのではないからです。そして、自分の成長(ゼロサムな<競争>における成長ではなく、プラスサムな<競走>における成長)実感は結局、他人 (ひと)といかに助け合えたかによってもたらされるものだからです。こういう励まし合いのことを英語でINCITEといい、これが弊社の社名=インサイト のもう一つの意味となっているわけです。

とはいえ、これはいわゆる<和>の思想とは異なります。ひところ、よく耳にした業界内のジョークにこういうのがあります。

<クライアントとの初会合の時、社長室に通されて、社長が『和』と記された書を背にして座っていたら、これはアカンと思え>

<和>の場合、そこには<競争>がないだけでなく、<競走>もありません。そこには、内部の論理だけがあって、外部への働きかけがありません。ですから、そこには成長機会の貪欲な発見と活用がありません。そこではむしろ、「出る杭は打たれる」のです。

私の場合、社長室に『和』と掲げられているような会社に対して、次のように提案したことがありました。

<和から愛へ>

<和>と異なり、<愛>には<競争>はなくても、<競走>は存在します。なぜなら、内輪の和を自己目的化することを許さない、外部へのミッションが 存在することがそこでは自覚されているからです。そこには外部が自分たち(=内部)に突きつける<課題>(=Challenge)が常に存在します。そし て、内部(=仲間)はそうした外部からの<課題>に皆で応えることをお互いに助けるために存在するのです。

クライアントについてINSIGHTして、クライアントをINCITEする。これは我々の仕事です。しかし、それを受けて、クライアント(その社 員)がお互いをINCITEできるように励ましたい。<お互いの励まし方についての外部からの洞察と励まし>、これを提供する方法として我々がお勧めして いるのがOJTコンサルというものです*2)。What’s OJTコンサル?これについては、また次回ということにしましょう*3)。コウゴキタイ!

Love & Work !!

*1)これまでの放送分については、次のサイトに、台詞のアーカイブがあります。上記の「云々」の部分をお確かめください。
http://www.nhk.or.jp/professional/backnumber/index.html

*2)OJTコンサルについては弊社HPにも若干記載があります。そちらもご覧ください。
http://www.insightcnslt.com/

*3)とはいえ、もしかすると、次回あたり、タイ関連のナゴミネタを入れるかもしれません。そのときは、マイペンライ!

「インサイト」ってなに?

サワディ・クラップ!

バンコクは今、中国の正月の真っ最中です。中華系の企業、お店はどこもお休み。いつも行く、バーミー・ヘン(タイ式のそば)のお店も昨日行ったら閉まってました。そうか、ここも中華系だったんだ、なんてことが分かります。

これが終わると、今度はタイの旧正月=4月まで、気温がどんどん上がっていきます。去年の4月には42度というのを体感しました。人の体温より熱い。だからタイ人はお互いにくっつきあって、涼もうとします。すごいでしょ!

年があらたまった機会に、会社(株式会社インサイト・コンサルティング)のインターネットのサイトを改訂することになりました。それに伴って、会社 のフィロソフィーを語る部分を書けというミッションが私に回ってきました。というわけで、サイトを閲覧していただければそれをお読みいただけます*1)。 でも、あれこれ考えたことをもう少し詳しく論じたいと思って、今回はそのために紙幅をいただくことにしました。

サイトには、私たち(インサイトのことです)のフィロソフィーを語るに際して、3つのキーワードが掲げられています。

インサイト
学習する組織
Love & Work!
では、まずインサイトから。この言葉は私たちの会社の社名ともなっていますが、この<インサイト>には実は二つの意味があります。一つは<INSIGHT>=「洞察」という名詞。そして、もう一つは<INCITE>=「鼓舞する」という動詞です。

会社案内や名詞にあるロゴには、が立っていて、その影がになっています*2)。デザイナーがこの2重の意味を形にしてアピールしてくれました。これ、とっても気に入っています。占部さん、感謝!*3)

<INSIGHT>=洞察とはなにか?思考には、分別、識別、洞察の3つの水準があると考えてください。分別とは正邪・善悪・真偽などの二項対立関 係にあるものについての判断。識別とは隣接する概念、近似の物事についてその差異を認識すること。そして、洞察とは、物事の背後の本質、根源を理解するこ と。われわれは、二項対立的関係の整理や、差異の分析を超えて、物事を根源的に考え、その普遍的な性質をとらえ、そこから具体的な手立てを持ち帰る力が必 要なのではないでしょうか?

二項対立の思考は冷戦構造下の思考様式です。東対西、北対南、云々。昨今でも、「文明の衝突」論や「悪の枢軸」論などにこの思考パターンは残ってますけど・・・・。しかし、こういうのだけでは「水戸黄門」的思考になってしまいます。あまり、頭がよさそうな感じはしない。

差異の分析とは、いわゆる「ポスト・モダン」の思考ですね。経営学やマーケティングの世界(というか業界)でも、差異化=差別化といった文脈でこの 思考は一時代をなしました。思想界における「ポスト・モダン」思想=現代思想の衰退とともに、こういうパターンにもだいぶ翳りが出てきました。

では、その先はどうなるか?などと、問う姿勢自体があぶない、というか恥ずかしい!

小熊英二さん*4)は、その対談集、「会話の回路」の中で、網野史学を打ち立てて一時代を画し、2004年に亡くなられた歴史家の網野善彦さんについて、民俗学の谷川健一さんとの対談の中で、こんなことを言ってます。

小熊:・・・、網野さんご自身は、一貫してそのつもりはなかったと否定なさるけれども、(網野さんのお仕事は)結果としてみると、非常に時代とシンクロして走っている。
谷川:(網野さんの)「百姓は農民ではない」という主張とか、漂白や移動を重視した歴史観とか、稲作文化一元論批判とか島国意識批判は、農業人口が減って海外渡航が大幅に増えた世相と重なっている・・・。
小熊: 私も網野さんと対談したときにそう申し上げたのですが、ご自身はまったく意識していない。(中略)そもそも時代のリーダーになる人は、決して流れを自覚的 に読んでいるわけではない。時代の流れを意識的に読もうとして、後追いで追いかけているような人は、リーダーにはなれません。リーダーになる人というの は、当人の実感としては、ただ自分が好きなように走っているんだけれど、時代の方がついてくるといった人たちなのでしょう。
小熊さんは、この対談集の中で、このモチーフを一貫して持っていて、対談相手に陰に陽にそれをぶつけ、仮説と検証作業を行っています。そして、その都度、仮説は「真」であることが、検証されていく。

通常、コンサルティング・ファームの仕事はまさに「時代の流れを自覚的に読む」こと、それ自体です。しかし、私たちは、そういうこととはちょっとだ け違うことを目指したい。そしてその方法の中核にあるものを、<INSIGHT>=洞察=「物事を根源的に考え、その普遍的な性質をとらえ、そこから具体 的な手立てを持ち帰る力」と表現したわけです*5)。

例えば、ここタイの労働事情について、あれこれ考えるに当っても、私はそのあれこれを「タイの遅れ」(遅速という2項対立)だとも、「タイの文化」 (差異)だとも考えません*6)。それをなるべく、タイで現前した、人間に普遍の、根源的性質として捉えようと努めています。例えば、タイ人の「傷つき易 さ」は、人間に普遍のフラジャイルな本質の、プリミティブな、いやオリジナルな現われではないか。だからこそ、日本でも、社員の尊厳を認めて (Respect)、社員をマネージメントすることが大切なのではないか、云々。

そういう方法(=普遍性の根源的洞察)を使って、どこまで広角に、かつどこまで具体的に、仕事の現場のお手伝いができるか、われわれインサイト自身の洞察力を試すチャレンジングな場をこれからも与えていただければ幸いです。

次回は<INCITE>について説明させていただきたいと思います。コウゴキタイ!

Insight!

Love & Work !!

*1)会社のHPのURLは次の通りです。是非、ご一読を。
http://www.insightcnslt.com
*2)上記URLから会社案内にとんでいただくと実物をご覧になれます。

*3)デザイナーさんの紹介:Urabe Formative Art Studio
http://www.ne.jp/asahi/urabe/fas

*4)小熊英二さんは問題作「民主と愛国」の著者にして、慶応大学助教授、そして売れない(失礼)ミュージシャン。
http://web.sfc.keio.ac.jp/~oguma/top.html
http://homepage2.nifty.com/fhifan/Cd/halle_review.html

*5)このあたりのことを、弊社のCOOの槇本は常々、「不易流行」という言葉-芭蕉の言葉ですね-を使って表現しています。それについては、いつかこのメルマガで書いてもらいましょう。

*6)このあれこれの具体例については、この連載の1~2「タイ人にとってのお仕事」をご覧ください。上記の会社のURLがアーカイブの入り口になっています。