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タイ人にとっての「お仕事」(その2)周回後れ、それとも・・?

前回は、「ジュンさん」の例から、タイ人の「お仕事」に対する考え方を覗いてみました。今回は、私が実際に目撃した例から、タイ人の「お仕事」事情について報告します。

町を歩いていて、またお店に入ってすぐに気づくこと。・女性が多い・店員の数が多い

女性が多いということについては、前回も述べました。その理由を地元の人に聞いたところ、曰く、「だいたい、タイの男性は言葉を操る作業に不向き で、事務職・売り子といった仕事はどうしても女性になる」(女性言語優位説)「学生の時から、男はだいたい勉強しない。女性はとっても勉強家」(男性元来 怠け者説)まあ、どっちもある程度真実なんでしょうね。

しばらく前に、ベトナムのハノイに行ったときも、女性の職場進出が進んでいるのに驚きました。彼の地で会った「お偉いさん」の2/3は女性でしたから。

但し、タイとはちょっと背景の事情が違うようです。ベトナムの場合、1986年以降のドイモイ政策以前は、コテコテの社会主義国。で、男たちは国有 企業に毎朝働きに行く、仕事はない、ぶらぶらしている、当然収入は少ない。その一方で、妻・母親たる女性たちが、畑仕事と闇の商売で家族を支える。ドイモ イ以降、起業した若い事業家たちは皆、母親を尊敬しているんだと、ベトナムでナンバー*のソフトウエア開発会社の若き社長(彼は男性)は言ってました。

で、再びタイの話。それでは男たちは何をしているかというと、何もしてないわけではない。例えば、私が住んでいるような「外国人向けのアパート」で いえば、フロントやバックヤードの事務職、そのマネージャーは女性、ドアマンやベルボーイ、セキュリティやエンジニアは男性というふうに棲み分けがなされ ています。女性の仕事=フロントヤード系の事務系、男の仕事=バックヤードの肉体系という図式がどうもあるようです。スーパーのレジでも、お客と直に接す るレジ打ちは女性、その後ろで黙って袋詰めしているのは、きまって男性です。

ベトナムでは女性がバイクを運転しているのをずいぶん見ましたが、タイではバイタク(バイクタクシー)のドライバーは全員男性。車を運転しているタイ人の女性というのもほとんど見かけません。それほど、役割分担がはっきりしている。

役所に行っても、お偉いさんは女性ですね。警察署やイミグレに行きましたけど、どの部署でも一番奥に座っている偉い人は女性でした。しかも、けっこ う若くて、きれいな人が多い(町でよく見る、いわゆる<癒し系>の美女ではなくて、ちょっと<キツイ系>の、でもファラン(タイ語で欧米人のこと)が好ん でつれて歩いている<野獣系>の女性とも違う-だからどうしたといわれても困るんですが)。どうしてなんだろ?キャリアシステムが関係してるのかなー?も ちろん、そのまた奥にはもっと偉い人がいるわけで、それが男なのか、女性なのかは分かりません。

男性との相対的な人数比とは別に、そもそも店員の絶対数が多いという点。例えば、日本人が多くすむスクンビット地区の真ん中、プロンポンというとこ ろにエンポリアムというデパートがあるんですが、お客の人数より店員の数の方が多い。いつ行ってもです。客がいない間、彼ら(彼女たち)はずーーーっと、 おしゃべりしてる。なかには手を繋いで仲良く、しっとりとお話ししている子もいる。

お客がその一人を呼んで、「これが欲しい」と言うとします。彼女はそれをレジに持って行ってくれる。レジではそれをレジスターに打つ人がいる。包装 する人がいる。袋に詰める人がいる。私に渡す人がいる。というのは嘘ですが、そんな感じに思えるほど、業務は細分化されていて、一人の人はそのほんの ちょっとの部分しか担わない。いや、ただ、一人のお客をみんなで<イジッテ>いるだけなのかもしれない。ああいうのも分業と協業というんだろうか?ただ の、<ミナデヨッテタカッテ>にしか見えないんですけど。

ある時、ある商品について、一人の店員に探してもらったり、説明してもらったりで、ずいぶん世話になったので、一緒に買おうと思っていた別の商品を 探すのも手伝ってもらって、その全部がその店員のアカウントになるようにと考えた時も、あっさり他の店員に引き継がれてしまいました。どうも、インセン ティブは無いみたいです。

そうそう、一度など、エンポリでの買い物を自宅に配送してもらったら、荷物の数より、配達人の数の方が多かったっけ・・・。あれには妻も驚き、笑ってました。

でも、こうしたことをタイの「後れ」と簡単に片付けてしまうことはできないんじゃないでしょうか?だって、これって、ある意味、女性の社会進出と ワークシェアリングが進んでるってことでしょ。しかも、仕事中、彼らはとっても幸せそう。だって、職場のみんなが友達で、とっても仲良し。これはパート ナーシップが良好だということですね。

日本ではなかなかできないことです。タイのことを周回後れだと思ってたら、タイの方がトップランナーで、日本の方が後れをとってたなんてことも無きにしも非ず・・・。

考えさせられます。

タイで「あなたは幸せか?」なんてアンケートをとると、八割くらいがYESと答えるという、有名な話があります。まあ、実際にそのアンケートと集計結果をみたことはないんですが、そういう話がある種のリアリティをもって流通しているというだけで、文脈上は十分でしょう。

確かに、幸せなんでしょうね。仕事中にあんなに楽しそうなんだから。<Love & Work!>を先取りされちゃってます。

次回は「タイ人にとっての『お仕事』(その3)」。タイ人の苦手なこと=計画・反省・人前で叱られること、というのを計画してます。<コウゴキタイ>

Love & Work !!

タイ人にとっての「お仕事」、または「サバーイズム」について

タイのバンコクには、在タイ大使館に登録されている分だけで、2万人以上の日本人が住んでいるそうなんですが、それくらいの数になりますと、日本人 向けのサービスの集積もそこそこの規模になります*1)。すると、それをアドバタイズするメディアもかなりの量になってきて、実際、日本人向けの(つまり 日本語版の)フリーペーパーの類は私が目にしただけで、十指に余ります。定期刊行されているものだけでです。そのなかに「DACO」というフリー・マガジ ンがあって、月に2回発行され、日本人が立ち寄りそうなところならどこででも手にすることができます*2)。

その174号(賞味期限2005年8月5日~9月5日頃まで-と表紙に書いてあります)に、「ジュンを見ればわかること」という特集があってそれが 面白かった。ジュンというのは、同誌のタイ語版の編集長で、最近その職を自ら辞して(つまりやめて)しまった女性、というか、写真で見る限り、女の子とい う感じ(27歳-たぶん)。それで、どうせ辞めちゃうなら、彼女を取材対象にして、リアル・バンコク・ライフを記事にしようと、日本語版スタッフが考え て、この記事ができたらしいんですね。彼女の住まいや、交友範囲、食べてるものや、通勤事情、ワードローブ(?)やペット、はては財布の中身まで裸にされ ていて、大変興味深い。私の周りの日本人も、この号のDACOは永久(は大袈裟ですが、当面)保存版だと言っています。

特に面白いと思ったのは、彼女がなぜ編集長の仕事を辞めてしまったのかといったあたりのことが書かれているくだり。題して「ジュンお仕事。タイ人お仕事。」ちょっと引用します。

「日本人と働くという経験を持てた私は幸せでした。得たものは大きいですよ。 ①上司に言われたことにはイジケがちだったけど、それに耐えられるようになったこと、 ②詳細に、もっと詳細にしらべること、 ③撮影以外でだれかに会うときはサンダル履きじゃないほうがいいこと、 ④おいしい料理をたくさん知ったこと・・・・などかな。会社、そして会社の仲間、こういった機会を与えてくれてありがとう。でも、私はサバーイを選択しま す。」

要するにジュンさんは「サバーイ」のために会社を辞めるんですね。「サバーイ」というのは、タイ語で「快適」という意味。マッサージをやってもらっている時の会話をつかって用例を学んでください。

M(マッサージする人):サバーイ、カー?私:サバーイ、サバーイ・・・。M:コップン・カー(ありがと)。と、いった感じで使います。

サバーイという言葉はタイ人にとってone of themの形容詞ではなくて、民族の感性、気質が凝縮された言葉なんです。「快適、気持ちいい、楽(らく)、楽しい、ストレスがない、抑圧がな い・・・・、それが一番!」、これがサバーイ・イズム、略してサバーイズム(私の造語ですから、他で通じなくてもあしからず)。

ジュンさんは言います。「ある日本人スタッフが言いました。『仕事をしていると、妬みとか自己嫌悪とか競争心とか自分の嫌な面が出てしまう』と。私にはその気持ちが分かります。」「No more job-仕事をしている自分が嫌い。」

この二重括弧の部分が日本人スタッフの言葉だというところが面白いですね。つまり、そのようなストレスと感じるというところまでは、タイ人も日本人 もない普遍的な経験で、その後に「だからどうする」というところで、タイ人は「サバーイ」を選択して職を辞し、日本人はその重荷の下に留まる。

では、タイ人、特にバンコクに住む若い世代がいわゆる怠け者なのかというと必ずしもそうも言えない。実際、このジュンさん自身、自分の今後についてこう言っています。

「これからどうするか?月々の家賃や親への仕送りを滞らせるわけにはいかない。で、同僚にいろいろ相談して決めたのが古着の販売。ラムカヘン通りのザ・モール近くに5M*2M+専用トイレのスペースを月500バーツ(1500円くらい)で借りる。8月中に開店だ!」

でも、急転直下、事態は思わぬ方向に進展します。

「7月中旬。オーストラリアの大学で学ぶ従妹が一時帰国。現在の状況を説明すると『ジュン姐、古着販売業でこれまで以上の収入があると思う?オース トラリアで働きながら英語を学ばない?仕送りだってできるよ』とアドバイスされる。もっともだ。もっともというより行きたい。想像すると体中に力がみな ぎってくる。(中略)今年中にオーストラリアにいけるように計画を立てる。え?古着の仕事?誰かやらない?」

面白いねー。日本人だったら、まずこのオーストラリア行きの話しがあって、それから仕事を辞めて、それから・・・、でしょうね。でも、ジュンさんの 場合、まず編集長の仕事を辞めて、それから古着屋をやることに決めて、お店を借りて、開店準備の途中で、オーストラリアに行くぞー!・・・、なんですか ら。こういうのを、タイ語では「マイペンライ(いいからいいから、気にしない気にしない)といいます。

サワディカッ(おはよう、こんにちは、こんばんは、さようなら・・・・あいさつはみんなこれ)コップンカッ(ありがとう)サバーイ(いい気持ち)マイペンライ(いいからいいから)この4つを覚えれば、あなたも今日からタイ人!

でも、ジュンさんの生活設計にも従妹の生活設計にもちゃんと親への「仕送り」が入っているところが偉いですね。泣けます。

実際、タイ人のライフサイクル(もちろん理想形に過ぎず、実際はなかなかそうは行かないんですが)は、「若いときにバンコクに出て、親に仕送りし、 結婚して子供をたくさん生んで育て、老後は田舎に引っこんで、バンコクに出た子供の仕送りで生活し、その子供が結婚して子供をたくさん生み・・・」(無限 ループ)というものです。「子沢山」というところがポイントですね。これが「仕送り老後システム」を必須とし、かつ可能にする。

日本では、戦後、兵隊たちの復員とともに、その子供の世代として団塊の世代(1947年~49年生まれの世代)が誕生しました。1948年に優生保 護法が成立すると、日本は世界に類を見ない「堕胎天国」になり、団塊の世代は突然終息します。(世界的に見て、日本に婚姻外子が異常に(?)少ないのは、 堕胎の自由と非嫡出子差別が法的に公認されているためです)少子化によって可能になった貯蓄性向の向上は、郵貯=財政投融資システムにより高度成長を支え ます*3)。

その団塊の世代が新たな2007年問題の世代となる。同時に、政策としての少子化ではない、「少子化問題」が年金システムの破綻を危惧させる。そして、この夏、小泉さんは郵貯=財政投融資システムに引導を渡そうと「郵政民営化解散」に打って出る。これが日本の「現在」!

「ジュンを見ればわかること」-いったい、何が分かるんだろう?それは、タイ人のことだけではなくて、むしろそれを鏡として見た日本人と日本の姿。 タイとは違う道を、とっくの昔に(国民のほとんどにとっては、いつの間にか)、選んでしまった日本は、今になって、サバーイ・サバーイ、マイペンライなん て言ってるわけにはいきません。残念ながらネ。

私たち-つまり日本人が、労働や生産-つまり「お仕事」と、サバーイ-つまり「幸福」とを繋ぎ合わせるためには、単なる「気質」以上のもの、学び取 られた「哲学」や考え抜かれた「戦略」が必要なんでしょう。それを考えること、そしてそのことで「時代に一矢報いる」こと、それが私のライフワークです。

Love & Work !!

*1)正確な人数は、在タイ日本大使館のサイトにあります。
embjp-th.org/jp/jtrela/zairyu03.htm

*2)DACOのサイトは次のとおり。
www.daco.co.th
日本からも定期購読できます。その場合は有料ですけど。

*3)このあたりの議論については、次の本を参照してください。
「「人口減少経済」の新しい公式」松谷明彦著、日本経済新聞社刊

配信開始のごあいさつ

会社がアセアン地区における事業開発というミッションを考えついて、いざ誰が行くという段になったら、国内における機会損失を生じさせない人、時間 単価が安く、プロフィットセンターでない人という条件に見事にかなっているということで、私が行くことになりました。シンガポール、マレーシア、インドネ ア、ベトナム全体のハブという観点から、タイのバンコクが選ばれ、数ヶ月が経過しています。日本におられるクライアントの皆様に忘れられないよう、こちら の様子などをお知らせしようということで、このメルマガの配信に至りました。

題して、「Bang!通信」by 鯛男。

ビジネスと関係があるような、ないような、やっぱりある/ない(かな?)くらいのスタンスと文体でお届けしようと思います。楽しんでいただければ幸いです。

サワディ・カッ!