「自発性と当事者性」、または「他律から自律へ」

相変わらず、バンコクからの発信なんですが、これ以上「マイペンライ」精神に脳みそをやられないように、ちょっと硬めのトピックを選んでみました。お付き合いください。

コンサルタントに対する質問で一番多いのは、「コンサルタントって、なにするの?」というものです。次に多いのは、「どうやってコンサルタントに なったの?」という質問。「なんで、コンサルタントになったの?」と聞いてくる人はまずいません。でも、私自身にとって一番大切なのは、この最後の質問。 だれも尋ねてくれないけど、勝手に答えちゃいましょう。

学校を卒業して、いざ就職だとなったとき、私にはこれといった職業的展望はありませんでした。恥ずかしいことです。でも(だから、かな?)どこかの 企業に入って、成り行きでなんとなく何かの専門家になるのはいやだった。それで、はっきりと「したいことを持っている人」をサポートする仕事をしたいと 思った。それが、コンサルタント(まあ、一直線でそうなったわけではありませんが)。

コンサルタントというのは、まあ、相談に乗る人という意味ですから、相談に来る人より当然、当事者性は低い、というより、はっきり言って第三者で す。でも、私には、当事者じゃないのに、自分の中に当事者性を捏造する能力(?)があった。自分自身が本当の生の当事者性を感じる対象がないから、人(他 人)が我が事と思っていることに肩入れして、それに燃える。この捏造された当事者性が、本来当事者であるべき人々に伝播していく。「あの第三者があんなに 一生懸命になってるんなら、自分たちも、もうちょっと真剣に考えてみるか」というように。これが私の基本的コンサルティング・スタイルです。

よく、社長さんが社員に対して、「物事に自発的に取り組め」といった類のことをおっしゃることがありますが、あれはちょっとおかしいですね。そもそ も、組織の中の仕事というのは、大なり小なり(たいていの場合は、大なり大なり)与えられたものです。それに自発的に取り組めというのは、形容矛盾みたい なもんです。

与えられた仕事、割当てられた務めに対して発揮すべきは、当事者性でしょう。自発性は、物事の起源を問題にしますが、当事者性はその後の取り組み方 を問題にします。同じようなものだと思わないでください。こういう微妙な差異に敏感な人が他の人を動かせる人になれるのです。

「自発性から当事者性へ」というお題目に加えて、しばしば、「他律を自律へ」ということも言ってきました。他律的な仕事とは「やらされ仕事」のこ と。自律的な仕事とは「やる仕事」のことです。で、「他律から自律へ」でなくて、「他律を自律へ」と言っているところが味噌なんですが、お分かりでしょう か?

自発性/当事者性の議論と同じことですが、もともと組織の中の仕事は、業務命令によって「他律的」に与えられたものです。だから「他律性」を否定し て「自律性」への移行(他律から自律へ)を志しても、それは現実を否定するに等しい。そうではなくて、「他律的」であるもの<を>、「自律的」なものに変 容していく。「他律的」な器はそのままに、そこに「自律性」を盛っていくという感じです。

それは「人生」そのものの構造とよく似ています。私たちは誰一人、「自発的」に生まれてきたわけではなく、「他律的」に生まれてきた(「生んでくれ と頼んだわけではない」という永遠の真理)。でも、生きるって、その<生>に「当事者性」を覚えて、「自律的」に生きることでしょ。だからこそ(構造が同 じだから)、人は「仕事を通して人生を鍛えることができる」わけです。

これは具体的はどういうことでしょうか。外から与えられたミッション、目標、商材などを自分自身のものとする。もともと「心から」のものではないからこそ、「心をこめる」。

人はまだまだ案外、心で生きています。心のこもった仕事が、まず自分を動かし、同僚や上司に波及し、最終的に顧客に通じる。ブレイクした商品からは、「当事者性」と「自律性」が、つまり係わった人の喜びが、オーラとなってでているように感じませんか。

そういう「ちゃんとした」、「きちんとした」、「いい仕事」がしたいですね。

Love & Work !!

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