「人々は大人になることをこう捉えています。
ある種の成長、進化、蓄積、達成であると。
しかし、あなたの小説は全く違うことを語っています。
それはある種の衰えであり、退化であると。
あるいはつらい記憶に向き合い過去と折り合いをつけることであると。」
(福岡伸一、「カズオイシグロ」を特集したTV番組の中でのイシグロとの対談において)
福岡さんは分子生物学者ですが、人は細胞内の物質レベルではつねに更新されていているのにどうして同じ人でありうるのか=同一性を保てるのか、という文科系の課題と取り組んでいます。
確かに大人になることの先に死があるわけですから、大人になることは「ある種の衰え」なのかもしれません。
それでも我々が「成長」や「成熟」について語るとすれば、その語りはそのことを所与として踏まえたうえでのものでなければならないでしょう。
「過去の記憶と折り合いをつけること」というフレーズもなぜか美しい。
こういうネガティブなモノイイが時に慰めとなり、救いとなるのはなぜなんでしょう。
福岡さんのこの言に対するイシグロ氏の応答がまた泣かせます。
それについてはまた明日。
それについてはまた明日。